2025-04-05
【極楽鼠浄土 ライブレポ】⑥キュウソネコカミ
⑥ 18:20〜 キュウソネコカミ
本当にここまであっという間だった。長いようでいて一瞬だった。そんな日の最後に出演するのはもちろんキュウソネコカミ。初の主催フェスでのライブは果たしてどんなものになるんだろうかとも思いつつ、そうした主催フェスでも本気のリハとして曲を連発しているというのがさすがである。
おなじみのFever333のSEでメンバーたちがステージに登場すると、楽器を手にしたメンバーが力強く音を合わせるようにして始まったのは改めて今の自分たちの意志を示すかのような「ウィーワーインディーズバンド!!」。ヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)は曲中に
「メジャー10年、遂に、ワールド記念ホール売り切れたー!!」
と嬉しそうに語る。そこからはバンドにとっての地元と言っていいこの神戸でこうした景色を見ることができている感慨と喜びを確かに感じさせてくれる。ヨコタシンノスケ(キーボード&ボーカル)が飛び跳ねまくりながら観客を煽っている姿も含めて初の主催フェスのトリのライブとしてこれ以上ないくらいのオープニングである。
そんなライブはまだ始まったばかり、だからこそ観客をさらに目覚めさせると言わんばかりに演奏されたのはバンドがミュージックステーションに出演した時に演奏された「MEGA SHAKE IT!!」で、ヨコタのキーボードが性急かつダンサブルなサウンドを鳴らす中で、曲中には同期の音が流れることによってソゴウタイスケ(ドラム)も立ち上がり、オカザワカズマ(ギター)とサポートベースの木原も含めて全員で振り付けを踊る。もちろん観客も一緒にその振り付けを踊っているのだが、バンドにとってのターニングポイントの一つと言ってもいいこの曲にこの景色をしっかり見せるかのような選曲であるような感じがしていた。
そんなこの記念すべき場所での景色を見せてあげたい曲の最たる存在はこの日もヨコタがイントロを鳴らしただけで大歓声が起きた「ファントムヴァイブレーション」だろう。セイヤはいつもよりもさらに活発に動き回りながら歌っているような感すらあったが、この主催フェスでのこの曲での
「スマホはもはや俺の臓器ー!」
の大合唱を、神戸のライブハウスで演奏していた時に想像していただろうかと思ってしまうのもこの日だからこそである。
さらにはこの日はヤバTもカバーしてくれた「ビビった」を演奏し、やはり主催フェスでのライブともなると前半から凄まじいキラーチューンの連打っぷり。それはこうした曲たちを前半に演奏できるくらいにキュウソがさらなるキラーチューンを作ってきたということではあるが、セイヤの
「なめんじゃねぇ!」
の叫びを聴いていると、このバンドが持っている牙は全く丸くなることはないなと思う。それくらいに鳴らしている音も激しさと強さを感じさせるし、だからこそ客席ではやはりサークルが発生したりしているのである。
MCではセイヤが
「アーティスト主催フェスたくさん出てきて、全部のステージ観たりせなあかんし、大変そうだな〜って思ってたけど、今日はもう朝からずーっと幸せだった」
と初の主催フェスの実感を語る。それがわかったからこそ、大変そうでも主催フェスを続けているバンドの気持ちもわかった部分もあったんじゃないだろうかと思うし、何よりもその幸せな感覚こそがこのフェスがこれからも開催されるんだろうなと感じさせてくれるものでもある。
そんな感覚をそのまま音楽にしたかのような曲が「推しのいる生活」であり、この日のこの曲で歌われている推しは紛れもなくキュウソであり、「わっしょい わっしょい」と我々観客に担がれる存在もまたキュウソであるということである。今までも何度もキュウソへの感謝を聞きながら込めてきた曲であるが、主催フェスでのサビでの客席のわっしょいポーズはやはりいつもとは全く違う感慨を与えてくれる。
そうしたキラーチューンの中に入ってくることによって少し驚きながらも笑ってしまったのは「正義マン」がこの中に入ってくることだ。セイヤは客席を照らす用のライトを片手で持ち、もう片手でマイクを持って歌うという形になるのだが、「私人逮捕系YouTuber」という他に絶対誰も歌うことがないであろうテーマの曲を歌うというのもまたキュウソらしさであり、その最新系と言えるこの曲がこの日演奏されたのは必然と言えるかもしれない。やはりセイヤは体全体を思いっきり揺さぶるようにして歌っている。
曲と曲を繋ぐこの日ならではのライブアレンジから、オカザワのギターサウンドがキュウソなりのハードロックと言えるような音の重さと厚さを感じさせるような「囚」もまたこの日演奏されるとは。という曲であるが、この曲ではおなじみのセリフ部分を猿のぬいぐるみが喋っているかのようにセイヤがぬいぐるみにマイクを近づけるというパフォーマンスもまた観るのが久しぶりであり、それもまたキュウソなりのユーモアを感じさせるようなものであるという意味ではこの日にふさわしい選曲だとも言えるだろうか。
するとセイヤは自身がかつてオカザワと一緒にやっていたバンド、セルフボラギノールでの初ライブもまたこの神戸の街だったことを語る。当時拠点というかホームにしていたライブハウスはもうなくなってしまっているらしいが、同じ神戸のライブハウスである太陽と虎とは当時ライブハウス同士の関係性が良くなかったために、この日ドリンクの販売を太陽と虎チームが一手に引き受けているというのは結構な出来事だという。そうした神戸という街のライブハウスの歴史の中でキュウソが育ってきたということをも感じさせてくれるようなMCだった。
そんなMCの後にイントロが鳴らされて歓声が起こったのは、これまでも何度もキュウソのライブのハイライトを作り出してきた「The band」であり、やはりいつものようにメンバーはジャンプしたりしながら演奏しているのだが、それでもいつもとは違うのはこの曲で歌われているバンドへの思いが、この日はここにいる全ての人たちがキュウソのものとして聴いて歌っていたからだ。ここまで決して順風満帆ではなかった。10年経って、ワンマンではなくてフェスでようやくこの会場が完売するようになった。そんなバンドのこれまでがこの曲に集約されていた。キュウソがロックバンドであり続けてくれたからこの日がある。
「新曲ありがとうー!」
のフレーズを叫びながら涙を流している人もいた。そうなっても仕方ないというか、この日のこの曲はそうなるためのものだった。一緒にここまで来ることができた喜びを分かち合うための。
しかしもちろんこの日はそんなクライマックスを迎えても終わることなく、ヨコタが足を高く上げながらイントロを弾くのはある意味ではキュウソ最大の代表曲と言える「DQNなりたい、40代で死にたい」で、ステージ前からは火柱が噴き上がるという先程までの幸福な空気をその爆音で切り裂いていくかのようですらあるが、セイヤはもちろん曲中にステージを降りていくと客席の通路の中を歩き回るのだが、それぞれのブロックに足をかけるもそれ以上先には突入せず、観客に支えられるようなことはしない。それはこの会場でのルールを守っているからであり、そのルールをしっかり守るという姿勢をちゃんと観てもらいたいというのも、好き勝手にやって破るよりも、守るべき存在のために破らないというカッコよさをしっかり見せるというような。だからこそ各ブロックの柵に足をかけたり、ヨコタが姿を見失いそうになりながらも「ヤンキー怖い」の大合唱が繰り広げられ、最後にはウォールオブデスまでも発生させる。それはつまり守るべきところはあれどキュウソらしいライブでしかないということである。
そうして会場の熱狂がピークに達したと思ったら、セイヤのギターリフがイントロから切なさを感じさせるのはまさかここで演奏されるとはという「何もない休日」であり、個人的にはキュウソの曲の中で1番えぐられるような感覚になる曲だ。それはこの曲の歌詞やメッセージがどうしたって刺さってきてしまうからでもあるが、もしこの日この場所に来なかったらやはりこの日は何もない休日になっていたわけで…と考えるだけで泣けてきてしまうし、コーラスフレーズをメンバーと一緒に歌いながらそう感じていた人もたくさんいたんじゃないだろうか。
そんなキュウソの持つあらゆる要素を全開にするような主催フェスのライブの最後に演奏されたのは、ソゴウがイントロのビートを叩き出す中でヨコタが観客への感謝を実にストレートに口にした「ハッピーポンコツ」。
ある意味ではキュウソとキュウソにまつわる人たちのテーマソングと言える曲であるが、サビ前でメンバー全員が鳴らす音が重なっていくのも今のキュウソならではのこの曲だが、サビでヨコタに合わせて手を上下に振るようにして踊ることによって浄化されていくような感覚が確かにある。それはここにいる全ての人がこうやってキュウソの音楽で踊ることによって楽しいと思うことができるという愛すべきポンコツだから。
セイヤが最後に叫ぶ。
「お前ら愛してるー!」
この日この場所で聴けて本当に良かったと思っていた。
アンコールで再びメンバーたちがステージに登場すると、会場入り口のネズミくんの門がめちゃくちゃしっかりと金をかけて作られていたことに驚きながら、めちゃくちゃもったいぶるような感じでこの日はお知らせがあることを告げ、まずお知らせされたのは全国47都道府県を回るツアーの発表なのだが、それがスクリーンに映し出された瞬間に観客が上げた歓声に呼応するかのようにして「家」が演奏され、
「だって「イェー!」って言うから(笑)」
とやはり発動条件がそれであることを口にするのだが、さらには来年に今度はインテックス大阪でまたこのフェスが開催されることまでもが早くも発表されたことによって再び観客が歓声を上げて「家」が演奏されるという流れに。カバーも含めるとこの日5軒も建ったというのは今後、このフェスじゃないと更新されない記録だと言えるだろう。
そしてセイヤが改めて観客に感謝を口にしてから演奏されたのは、10周年を迎えたことによって今だからできるこれまでの曲のセルフオマージュが盛り込まれた「ネコカミたい」。それはこの日がゴールではなくてまだまだ通過点であるということ、これから先もキュウソが歩き続けることによっていつかはワンマンでもこの会場でこの景色を観ることができるという確信をもたらせてくれるようなものだった。最後にはもちろんウォールオブデスも発生してセイヤが叫びまくるようにして歌っていた。
演奏が終わると出演者全員を呼び込んでの写真撮影が行われるのだが、この日出演していないフレデリックの三原健司(遊びに来ていたらしい)もしれっとステージに登場すると、
「今日はフェスっていうよりも、キュウソとそれぞれのバンドとの対バンっていう感じだった」
と評した。それはひたすらライブハウスで対バンを重ねまくってきたキュウソ主催のこのフェスをどんな言葉よりも的確に示すものだった。
何よりもその写真撮影時の出演者たちと観客たちの笑顔。それは今までにいろんなアーティスト主催フェスに出演しては、主催アーティストに力を与えるようなライブをやってきたキュウソが、逆に出演者たちからの愛を自分たちの力にしたライブができるバンドであるということを証明するものだった。それは音楽、ライブはもちろんバンドの人間性によるものでもあるはずだ。そんなバンドだからこれからも何回だってこういう日を作ってくれるはず。仲間たち、応援してくれる人たちの力をもらってこんな日を作ることができるって、キュウソがこれ以上ないくらいに少年マンガの主人公みたいなバンドであるなと改めて思った。この日のことを思い出すだけで泣きそうになってしまうくらいに、この日ここにいることができて良かった。そんな日を、そんな場所を作ってくれて本当にありがとう。
リハ.ギリ昭和 -完全版-
リハ.メンヘラちゃん
リハ.家
1.ウィーワーインディーズバンド!!
2.MEGA SHAKE IT!!
3.ファントムヴァイブレーション
4.ビビった
5.推しのいる生活
6.正義マン
7.囚
8.The band
9.DQNなりたい、40代で死にたい
10.何も無い休日
11.ハッピーポンコツ
encore
12.家
13.家
14.ネコカミたい
Writer:ソノダマン
Photo:Viola Kam (V’z Twinkle) , 鈴木公平